大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和38年(う)38号 判決

被告人 田村ハツヱ

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金四千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金四百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は魚津区検察庁検察官事務取扱検事斎藤厳作成名義の控訴趣意書のとおりであるから、ここに、これを引用し、弁護人は答弁として控訴棄却の裁判を求めた。

控訴趣意第二点(法令適用の誤り)について

その要旨は原審が富山県風俗営業等取締法施行条例第二六条に営業者の遵守事項を定めその第一号に「適当な保護者の同伴その他正当な理由がある場合を除き営業所に一八才未満(もつぱら酒類を提供する営業にあつては二〇才未満)の者を客として立ち入らせないこと」と規定しているなかの、もつぱら酒類を提供する営業とは、全く酒類だけを客に提供する営業であり、酒類以外に、おでん等を客に提供することがあれば、これに該当しないものであると解し無罪の言い渡しをしたのは右条例の解釈を誤つて適用した結果であり、この誤りは判決に影響を及ぼすべきものであるから原判決は破棄を免れないというのである。

よつて案ずるに富山県風俗営業等取締法施行条例は風俗営業等取締法第三条に基き善良な風俗を害する行為を防止するために制定せられたものであること、その規定の全趣旨に徴し明らかであり、同条例第二六条に営業者の遵守すべき事項を定め、その第一号に「適当な保護者同伴その他正当な理由がある場合を除き営業所に十八才未満(もつぱら酒類を提供する営業にあつては二十才未満)の者を客として立ち入らせないこと及びその旨を営業所の店頭その他見やすい所に表示すること」と規定し、特にもつぱら酒類を提供する営業をなす者には二十才未満の者を客として立ち入らせないことと規制した趣旨につき考察するに、およそカフエーその他客席で客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる業態はそれ自体において、心身の発育が十分でない青少年の保護育成に少なからざる悪影響をおよぼすものであることを考慮すべきことは当然であり、特に客に酒類を提供することを本来の営業とするものにあつては前叙の弊害の甚大なることにかんがみ、未成年者飲酒禁止法の目的、趣旨との関係上、二十才未満の者にそのような好ましからざるふんい気の中で容易に飲酒の機会を与えることを強力に防止するため、かかる営業所に二十才未満の者を客として迎え入れることおよびそれ等の者に対しては入所を禁止することを期したものと理解すべきである。そうであるとすれば右条例第二六条第一号に「もつぱら酒類を提供する営業」とは風俗営業等取締法所定の客席で客の接待をして客に遊興又は飲食させる営業のうち主として客に酒類を提供する営業、換言すれば構造、設備、機構、接待態勢等が主として酒類飲用を目的とする客を対象とする営業を指すものと解するを相当とする。従つて右の営業において客からたまたま酒類以外の例えばコーヒー、ジユース、おでん等を求められてこれ等を提供する場合又は右酒類以外の飲食のために来る客があつたとしても本来の営業そのものの本質に毫も消長をおよぼさないものと云わなければならない。

然るに原審が前記条例第二六条第一号所定の「もつぱら酒類を提供する営業」とあるを、酒類のみを提供する営業の趣旨に解し、被告人の本件営業は右の営業に該当しないものであるとして無罪の言渡をしたことは原判決書により明らかであつて、右は同条例の解釈適用を誤つたものであり論旨は理由がある。よつて事実誤認の論旨につき判断するまでもなく、原判決は破棄を免れないので、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八〇条により原判決を破棄するが、本件は原審及び当裁判所が取調べた証拠により直ちに判決するに適するものと認めるから同法第四〇〇条但書に従い当裁判所においてさらに判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三六年一二月一五日富山県公安委員会の許可を受け、爾来肩書住居地に営業所を設け、もつぱら酒類を提供するカフエー業を営んでいる者であるが、法定の除外事由なくして、昭和三七年一一月四日午後六時頃宝田勝之(昭和一九年一〇月三一日生)、阿閉邦夫(昭和一九年六月二六日生)の両名が、いずれも二〇歳未満の者であることおよび客として飲食をしに来たことを知りながら同人等を右営業所内に迎え入れて飲食物を提供し、もつて同人等を客として同営業所に立入らせたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は風俗営業等取締法第三条、第七条第二項、罰金等臨時措置法第二条第一項、富山県風俗営業等取締法施行条例第二六条第一号に該当するので、その所定刑中罰金刑を選択し、右罰金額の範囲内において、被告人を罰金四、〇〇〇円に処し、刑法第一八条第一項に則り、被告人において右罰金を完納することができないときは金四〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義盛 堀端弘士 松田四郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例